浅草の灯(第5回直木賞 候補)の書評

浅草を行き交う人々

昭和12年上半期の第5回直木賞の候補作『浅草の灯』は、浜本浩先生の小説で、浅草に住む者たちが激動の時代でも必死に生きていく姿を描いた時代小説でもあり、恋愛小説でもあります。そのような小説は、どのような内容になっているのか、あまりネタをバラさない程度に、ストーリーや見所を紹介します。

『浅草の灯』のストーリー

下町の神社

関東大震災が起きる前の帝都東京の浅草には、人情味あふれる長次郎や山上もいれば、ゴロツキの仙吉もいました。全く違う性格をしている者たちが、出会うようになっていき、大きな騒動が起きるようになっていくのです。

ボカ長と山上の出会い(起)

浅草ではオペラが全盛を迎えていて、多くの者たちが道を行き交っていました。そこへ仙吉という手癖の悪い男が、スリを働いてしまったのです。それを偶然にも長次郎が見てしまったので「今すぐ、盗んだ物を返してやったらどうだ?」と問い詰めます。

しかし、仙吉はしらばっくれて『お前何か、俺にケチをつける気か?」と開き直って、懐にしのばせた物を手に取ろうとして、一触即発の空気が流れたのです。そこへ山上七郎が現れて、仙吉から長次郎を助けてくれました。二人はすぐに打ち解けて、長次郎は「僕はオペラが好きで、友達は僕の事をボカ長と呼んでいます」と自己紹介しました。

ボカ長が抱いている淡い恋心(承)

山上は、ボカ長に初めて話しかけたハズでしたが、よく見かけた顔である事を思い出したのです。それは、知り合いの麗子という舞妓の女性を何回も見に来ていた男だったのです。山上は、麗子に手を出されては困るな笑いかけますが、ボカ長は「そんな事は決してない」と怒ってしまいます。

山上は、ボカ長は怒ってしまったので軽く謝ります。そして、山上はボカ長に麗子を紹介しようとしますが、麗子は少しそっけない態度を取ってしまうのです。しかし、そんな若き麗子を金に物を言わせて手を出そうとしていた者がいて、山上は何とか助けようとしていくのです。

ボカ長と山上が喧嘩別れ(転)

山上が麗子を助けようとしますが、その麗子を金持ちにさし出そうとする者もいて、浅草は、にわかに騒がしくなっていきました。そこで山上は、密かに麗子へ好意を抱いていたにも関わらず、ボカ長に麗子をかくまってもらいます。

所が、ボカ長も麗子に好意を抱いていた事から、彼女に言いよるようになりました。それを知った山上は、ボカ長と喧嘩別れしてしまいました。それからしらばくして、山上は、知り合いの藤井の長屋へ行く事にしますが、ボカ長と麗子が別れた事を知らされます。

所が、長屋にいた紅子から「何だい!麗子をボカ長なんかに寝取られて」と怒られてしまいます。実は、紅子は密かに山上に恋していましたが、素直な事を言えず、憎まれ口を叩いてきたのです。藤井は、山上に密かに「紅子はもっと素直になれば良いのになぁ」と苦笑いするしかありませんでした。

山上と紅子が歩いていく未来(結)

山上は、今までのいきさつから仙吉と不仲でしたが、そんな仙吉から頭を下げられて、この界隈で面倒になっている新吉という男をどうにかして欲しいと頼まれます。山上は最初は喧嘩ごしでしたが、頭を下げられた事もあって、一緒に同行する事にしました。

所が、仙吉は新吉の仲間がいない事を知ると、懐に忍ばせた武器で襲いかかろうとしたのです。しかし、腕の立つ新吉は簡単に倒せなくて、仙吉は手をすべらせて、自分の体を刺してしまい亡くなってしまいました。そこで、新吉は島田刑事に尋問される事になってしまうのです。

実は、新吉は紅子の弟だったので、彼女は嘆き悲しみます。山上は少しずつ紅子に好意を抱くようになっていき、紅子に「正当防衛だから釈放されるさ」と慰めるようになっていきました。はたして、山上の言うように新吉は姉の元へ帰る事はできるのでしょうか?

『浅草の灯』から伝わる事

雷門の画像

浅草は、今でも下町の風情が残る町ですが、昔から人情味あふれる町である事が『浅草の灯』から伝わってきます。ここで面白いのは、人情味のある山上とボカ長でも、女性が関わってしまうと、簡単に喧嘩別れしてしまう所です。

この事から分かる事は、例え考えや生き方が似ている男同士でも、恋愛が関わってしまうと、いがみあってしまうという所です。山上は彼女のためを思い、ボカ長を信頼している事もあって、ボカ長に麗子をかくまってもらいました。

しかし、どんなに信頼できる者でも、好きな女性は自分自身で守ったほうが良い事が分かりますね。

『浅草の灯』の見所

手を握ろうとする恋人

浅草の灯では、やがて関東大震災が起きてしまって、暗い世の中になっていく事から民衆は分かりやすい映画を好むようになっていきました。山上は知り合いの者と一緒に映画作品を作っていく事になりますが、そこで紅子を一緒に生きようとしていきます。

このように、仙吉が自業自得とは言え、命を落とすほどの大事件が起きてしまう事になっても、男と女の恋愛模様も描かれているのが『浅草の灯』の大きな見所になっています。